あぶない旅の想い出–ロワール河

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 若いころパリで1年くらい暮らした。留学したのだが、勉強はほったらかして遊びほうけていた。そのツケはその後たっぷりと払うことになったのだが、今は懐かしい思い出だ。そのころ週末になるとパリから国道20号線を車で南下してロワール河沿いの街、例えばブロアとかトゥール、アンジューあたりに遊びに行った。ヴィクトル・ユーゴによればロワールよりセーヌの方が美しいし、洗練されているということらしいが、私はロワールの方が好きだ。周辺に美しい城が多いのと、このあたりのワインは値段のわりにはなかなかのものだから。特に白ワインはぶどうの収穫年によってはびっくりする程の出来栄えだったりする。それにこの辺りはうなぎ料理で有名だ。その昔、年間12匹のウナギと引き換えに教区内の小さな町をひとつ売り飛ばした聖職者がいたと言われているほどだ。

で、また、あの美しい村や古城を巡りながら、美味い食事と酒、そして人生を棒に振ったあの頃がまだどこかに転がっていないかとそれを探しに行きたくなった。といっても、一人でフランスの田舎をうろつくのも、ちょっと侘しい。誰か一緒に行ってくれる人がいないかと思っていたら、偶然にも昔、といっても20年くらい前のことだが、短い間一緒に暮らした女に出会った。全く知らない他人と旅をするよりも、多少なりとも気心が知れた仲の方がいいだろうと深く考えもしないで誘った。「いいわ」即決だ。「アゴアシはあなたもちでしょ」。交通費、宿泊代、食事代全部つまり口と足に掛かる代金はあなたが払ってくれるんでしょうね、という念押しが続いた。まあ、いいだろう。「ところで、まだ一人で暮らしているのか」と彼女に訊くと、「結婚したわ」とケロっと言う。「つまり一緒に暮らしている男というか夫が今いるってわけか」とバカげた質問を重ねた。見下したような眼差しで「だからどうなの」と返された。一体どうなってるんだ。