あぶない旅の想い出–ロワール河

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 私はパリに彼女よりも一日早く着いて、翌日シャルルドゴール空港まで迎えに行った。仕事の都合という言い訳だったが、おそらく誰かに私と一緒のところを羽田空港内で見られるのを警戒したのだろう。彼女は出発を私と1日ずらした。この旅が当初考えていた気楽なセンチメンタルジャーニーではなく、危険で罪深い逃避行であるかのように思え始めた。
 キャスター付きのアルミ製キャリーバッグを引きずった彼女が自動ドアから他の乗客と共に出てきた。疲れた顔をしているが背筋を伸ばし、脚を真っすぐに前へ出す歩き方は優雅だった。じき50に届く年齢だが彼女にとって年齢は老いを意味しない。年を重ねて熟成と洗練を積み上げる、素性の良いブドウをつかって丁寧に育て上げたワインみたいなものだ。彼女は真っすぐ私に近づき、私の肩に腕を回すと軽く頬を合わせた。首筋からかすかにゲランの夜間飛行が香り立ち彼女との失われた20年を縮めた。
 その夜は、16区のコペルニック通りにある小さなホテルに泊まった。星は3つだが清潔で居心地の良い部屋だった。寝室もバスルームも充分な広さがあり、家具に汚れはない。一家で経営していて、気立ての良い娘がレセプションに座って切り盛りしている。コンシエルジュとしてはまるで役に立たないのだがそんなことはどうでもいい。今頃の気の利いたクレジットカードならそこそこのコンシエルジュサービスを提供する。私にはそれで充分なのだ。清潔であること、ちゃんといつでもお湯が出ること、スタッフがフレンドリーなこと、WIFIが使えること、それでOKだ。このホテルもクレジットカード会社が見つけてくれた。